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夜間保育園の卒園式

三宅 玲子

33人の6歳さんが保育園を卒園しました。


福岡のどろんこ保育園の卒園式に行きました。2019年に出版した『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』でこの保育園のことを書きました。取材でお世話になったおかあさんの末のお子さんが、この春、33人の1人として卒園します。


都市部で夜中の2時まで開いている夜間保育園です。仕事を続けるためにこの保育園を選んで遠くから通う親子がたくさんいます。卒園児さんたちの進学する小学校は19校にも分かれます。

ひとりひとり、壇上に上がって賞状を受け取るセレモニーは、省略されることなく、ひとりひとり、時間をかけて賞状をいただきます。自分が大事にされていることが感じられる、丁寧な証書授与。



壇上で証書をうけとると、みんなに披露してからおかあさんのところに持っていくという流れですが、コンディションが悪くて列席から外れた場所で泣いているお子がいました。順番がきたものの、壇上に行くことがむずかしいようです。すると、理事長先生が壇を降りて、お子に渡しに行かれました。泣いているのにはきっと何か理由があるのでしょう。理事長先生が持ってきてくれたそのとき、式の進行の中にあなたもいるよと言われたように、お子は感じたのではないでしょうか。しばらくすると、涙は止まり、おかあさんの膝で静かに抱っこされていました。


どろんこ保育園を知ったのは10年前に遡ります。初めて訪ねたとき、この保育園が「親を支える」を理念にしていることに驚愕した、そのときの気持ちを今もはっきりと思い出すことができます。

保育園というと、「本当はおかあさんが育てるべきなのに、それができない家庭のためにお預かりしている場所」という雰囲気が、保育する側にも世の中にも長らくあったと思います。見えない空気は母親に罪悪感を植えてきました。ところがどろんこ保育園は真逆でした。

以来、取材に通うようになるのですが、「親と子、家族を支える」という方針は筋金入りでした。母がコンディションを崩して生活が不規則になった家庭に職員が朝からお子を迎えに行ったり、朝ごはんを食べずに登園すると園でおにぎりを食べさせたり、親子関係に緊張が見えると、週末に理事長先生がお子たちをお預かりしたり。親を支えながら子の成長に伴走するさまざまな場面に立ち会いました。保育園という箱に収まりきれない親子を箱の外まで手を伸ばして支えあげる、それがどろんこ保育園でした。

親子それぞれの事情に合わせるという方針は、言い換えれば、違いを認めるということでもあります。



それぞれに違うということを認める考え方は、モンテッソーリ教育を取り入れた保育でお子たちに培われていました。お子たちは登園すると、モンテッソーリのおしごとのお道具の中から、自分でおしごとを選んで、黙々とおしごとに集中します。糸通しをしたり、お水のおしごとをしたり、選ぶおしごとはそれぞれです。この、おしごとを自分で選んで自分で手を動かすという毎日の積み重ねが「主体性」につながるのだそうです。


「みんなは、自分のことを自分が決められる、自分で考える人になりました」


理事長先生はこんなふうに33人に言葉をかけました。



新聞記者のおかあさんがスピーチをされました。3人のお子さんとともに、足かけ10年間どろんこ保育園に通ったそうです。不規則な仕事を続けられるのか不安だったとき、「おかあさん、いっしょに考えましょう」とゆったりと受け入れられたこと、こどもに対して厳しく叱って自己嫌悪になったときに笑って励まされたことなど、今もまだ母親責任を問う声の強い時代にどれほど心強かったかと話されたとき、ママたちは涙を流していました。


お子たち、親たち、先生がた。こどもを真ん中に三つのエネルギーの交錯する場所にいると、からだの芯からがあたたかなものが湧いてきました。不思議な感覚です。きっと「希望」と呼んでいいような。


私が取材でお世話になったママとお子さんも、胸熱の晴れ姿でした。無事にこの日を迎えられて、心よりおめでとう。



屋上庭園の桜。来月には満開の花吹雪がみられます
屋上庭園の桜。来月には満開の花吹雪がみられます

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