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三宅 玲子

バイクと人垣

坂道を下り終えて通りを曲がったころ、背後に乾いた大きな衝撃音を聞いて振り返りました。

本屋さんへと歩いていた道すがらの出来事。

何が起きたのかわからずにいる私の前を飛び出してきた男の人が音のした方へと駆けて行きます。 やっぱり何か起きたんだな。と思ってその人の後を追って坂道へ戻ると、バイクが倒れていました。 コロナで急増した四角い大きな箱を積んだような形のミニバイクもろとも運転手が倒れ込んでいるのを、 男の人が駆け寄って起こそうとしていました。 一瞬の間に近くの美容院やブティックから人が顔を出し、手伝う人たちであっという間に5、6人の 人垣ができていました。 バイクのせいで立ち往生していた車の運転席からもマダムが降りて心配そうに様子を見ています。 降りしきる雨のせいで滑ったんだろうと思います。 男の人は若い運転手の身体についた泥を払い、怪我がないか確かめている模様。 集まった誰かはケータイでどこかへ電話を始めました。運転手の代わりに会社に連絡をしているのでしょうか。 私の目の前を駆けて行った男の人は日焼けした足にビーサンをひっかけていました。 サーフショップのオーナーでした。 彼が飛び出して行った姿に引き寄せられるように人が集まった光景を思い返すに、優しい気持ちは伝播するんですね。 ここ数日の曇天に加えて今朝は朝から冷えるし雨だし、気持ちが晴れないなあなんて思いながら始まった今日でしたが、 自分の暮らしているこの街をギュッとハグしたくなったあたたかい人垣。 部屋でパソコンのモニターを睨んでいるばかりではこんな景色にはでくわせないよね。 今日も、いい日。



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