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  • 三宅 玲子

「本屋は終わった」と思っている人たちを 見返す3人の書店主に聞く 『小さな町で営む。令和型書店の技』

私はね、本屋は終わったと思っている人たちを見返したいんですよ

反骨溢れる発言者は、高久書店(静岡県掛川市)を経営する高木久直さんです。

 

高木さんが9坪の同店を開業したのは、コロナのとば口に立った2020年2月。令和になったばかりでした。掛川市は人口11万人、この夏甲子園に出場した県立掛川西高校から徒歩数分の立地で、徹底的に地域に根ざした、小さくも求心力に溢れる書店を育んでこられました。

地域展開するチェーン書店のエリアマネージャーとして積み重ねた知見が生かされているのは言うまでもありませんが、組織から離れて開業する背中を押したのは、実は遠く離れた北の大地の書店でした。それは留萌ブックセンターです。

 

◯留萌ブックセンターが背中を押す

掛川から北上すること1000キロ、北海道の西端、留萌市に留萌ブックセンターは所在します。

明治期から石炭、木材、ニシン漁などで栄えた港町。かつて5軒の書店が賑わっていましたが、2010年冬、最後の書店が閉店し、無書店地域になりました。ところが半年後の2011年夏、留萌ブックセンターは誕生します。三省堂書店に熱心に働きかけた市民の誘致活動が結実するまでのドラマは『本屋のない人生なんて』の序章に記した通りです。

開業前、高木さんは掛川からはるばる、一度は無書店地域になった彼の地で生まれた留萌ブックセンターを訪れます。


 



そして、人口2万人の町で市民により誘致が実現したこの書店を、開業後も、お話の会や朗読会、こども向けスタンプカードなど、きめ細やかにボランティアが支え、地域に必要とされる書店として継続している、そんな話を店長の今拓己さんから直接聞き、高木さんは奮い立ち、本屋を開こうと決心します。

 

◯高久書店・コロナ禍の船出

ところが開業直前の2020年1月、世界を未曾有の感染災害が覆い尽くします。しかし翌月、高木さんは予定通り開業し、初年度から売上予想を上回る売上を実現しました。

「サンダル経済」という言葉を本書で紹介しています。サンダルをつっかけて近隣のひとたちが気軽に立ち寄られる場所を用意することで、気軽に本に触れる機会を細やかにつくっていくと、ひとはおのずと本に触れ、本を買い求める。また、「商店街から本屋がなくなり本を買って読む習慣を断ち切られれれば地域住民のQOL(Quality of Life)が下がる」と、高木さんは書店が地域からなくなることの本質的な問題を看破します。

 

令和に生まれた高久書店は、新しくも懐かしい本屋さんとして、4年経った現在は地域になくてはならない場所です。



 

◯ひとびとの渇望する書店、里山に現る

5月、中国山地に書店がオープンしました。

広島県庄原市の旧市街地に誕生した「ほなび」です。

美しい里山に囲まれたこの土地から最後の書店がなくなったのは、2023年秋のことでした。

そしてひとりの庄原市議会議員が、書店経営者・佐藤友則さんに、商圏人口2万人の庄原にも本屋を出してほしい、それはあなたの使命だと迫ります。

 

佐藤さんは140年続く書店業の第4代経営者です。明治22年、初代は広島県神石高原町の山深い地域で馬に雑貨を積んで行商を始めました。初代は生活雑貨とともに書籍を運び、地域の人たちに喜ばれました。輸送に困難の伴う当地で、広島県で二番めに新聞販売店を開業したのも初代でした。ときを経て、佐藤さんの父上である3代目が平成初期に広島県と岡山県の県境にある東城町(人口6600人弱)でウィー東城店を開業。4代目はこの店で、徹底して地域の人たちとともに歩む書店業の技を編み出しました。「作者や編集者の言霊が生きている、それが本」という信念は、地域の人たちの日常に徹底的に添う方針の中で確信に昇華しました。

 

その総商さとうに、本屋をつくってほしいという声は、言い出しっぺの市会議員にとどまらず、庄原に暮らすひとびとの願いとして集まりました。

不動産会社、商工会議所などが協力して半年後に開業すると、涙を流して喜ぶひとたちがいました。


◯令和型書店モデルを探る

書店が地域の人たちに求められる景色は、留萌ブックセンターの開業の風景と重なるものでした。

ひとと本をつなぐために地域密着の方針を徹底し、地域の人たちの応援を得る、それが令和型書店だとすると、平成の終わりに誕生した留萌ブックセンターは、一歩先を行く未来の書店の最先端モデルだったのかもしれないという思いがします。

 

3店の営みに共通するのは、地域の人たちの応援を得ているところ。

書店業という民業が、地域の応援を得ながら持続していく、それは令和の時代に存続する書店のひとつのモデルとして参考になるかもしれません。

 

ただ、どのような応援を得るか、それはさまざまです。

解はひとつではないでしょうし、方程式があるわけでもないのでしょう。

地域の特性、書店主の個性など、条件によっておのずと異なるでしょう。

一方で、共通項もあるかもしれません。

そうした「違い」と「共通項」もうかがっていきます。

 

◯3地点を中継します

およそ書店は成り立たないと思ってしまいそうな規模の町で、3店の営みは、書店業と人口減少問題という負をかけ合わせてプラスに転じさせる現象です。

8月23日、本を手渡す仕事に激しいほどの思いを秘めた三人の書店主に登壇いただくオンライントークセッションでは、北海道留萌、静岡県掛川、広島県庄原市の3地点とつなぎます。

令和型書店の「背骨」を80分の鼎談でうかがっていきます。

 

鼎談では、実業の技や書店主のマル秘のルーティンについてもうかがいます。

本を手渡す仕事に賭ける3氏がオンラインに登壇される奇跡の会、ぜひご参加ください。

 

2024.8.  三宅玲子 




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